浪速の味 江戸の味(十月)鯊の佃煮【江戸】
山海のものを醤油と砂糖で甘辛く煮付けた佃煮は日本各地にありますが、その名前の由来となったのは現在の東京都中央区の佃島と言われています。
1582年本能寺の変の折、堺にいた徳川家康の三河への脱出を助けたのが摂津国佃村(現大阪市西淀川区佃町)の漁民でした。家康は江戸幕府を開いたのち、佃村の漁民を呼び寄せ、墨田川河口の干潟を埋めたてて漁業権を与え、故郷に因み佃島と名付けたとのことです。
佃島の漁民が雑魚などで作った佃煮は安価なこともあって江戸庶民に広まり、日持ちの良さから参勤交代の武士が江戸土産として持ち帰って各地に広まりました。
佃島は今は島ではなくなり、墨田川沿いには高層マンションが立ち並びます。それでも住吉神社を中心とする地域には昔ながらの家並みが残り、江戸時代から続く佃煮屋さんが季節の佃煮を商っています。
江戸前佃煮の代表格が鯊です。東京湾やその河口で秋によく釣れ、私も釣り好きの父のお供をしてよく出かけたものでした。子どもでも簡単に釣れる小ぶりの鯊は、頭でっかちな姿が面白く、お気に入りの秋の行楽でした。父は釣った鯊を天日干しにして保存し、暮れには正月用の佃煮を作っていました。大小不揃いの鯊がかえって好もしく、なんとも美味しい自家製の佃煮でした。
青空や鯊釣り船のにぎにぎし 光枝